| 記事No | ： 608 |
| タイトル | ： 麹ＰＣ、エピローグ |
| 投稿日 | ： 2018/09/21(Fri) 00:33:36 |
| 投稿者 | ： 麹 |
| 参照先 | ： |
エピローグ 〜 アーデルハイトとアイシャ 〜
ついに、世界の崩壊がはじまった。
世界を呑みこむために設置された『ダナン天球』は急速に萎みはじめ、
世界は歪曲を始める。
アイシャによって作り出された『彼女の愛した世界』は、ダナン天球の事象編纂により、急速にその世界の形を変えていく。
全てを最初から無かったことに、無の、闇に。
縮み、歪み、崩れゆく、その世界の中に虚無があふれ、惨劇が繰り広げられる。
血の海の中、絶望に溢れ、アイシャの愛した人々が次々に倒れていく。
アイシャが泣き叫ぶ、
その姿は魔法の真姿、「猫の道化師人形」に戻っている。
「もうやめて、わたしの愛した世界に、どうしてこんな酷い事をするの！」
その小さな小さな心は、いまにも押し潰されそうなほどに歪んでいく。
「お願い もうやめて！もう見たくない。誰か助けて！」
天球は更に縮み、やがて彼女もろとも、闇に呑みこもうとする。
彼女の心が歪みに耐えられず、絶望に打ちひしがれる。
「もう、死にたい…」
その刹那、目の前に光が溢れる。
「おねえちゃん？」
目の前に彼女の姉『道化師の輪舞曲』アーデルハイトが現れる。
彼女もまた魔法の真姿、『兎の道化師人形』に戻っている。
『アイシャ、可愛い妹のアイシャ。約束通り、あなたのところに戻ってきたよ。』
アーデルハイトはアイシャを抱きしめ、癖っ毛のポニーテールの髪を撫でる。
『ああ、全てが懐かしい。
世界を賭けた姉妹喧嘩、わたしは確かに貴女に負けた。
約束したよね。最期まで一緒に戦い、ともに滅びの道を逝こう。
二人で居れば怖くないからね。アイシャ。』
２つの人形の心から光が溢れ、ひとつになる。
『あなたがたとえ、世界の全てから、目を背けられたとしても、
わたしはずっと、あなたを愛し、見つめているよ。』
世界が深淵の闇に沈む。
光の中、闇に飲み込まれた人形の足は引きちぎられ、腕が弾け飛ぶ、
２つの人形は顔だけを残して、バラバラに引きちぎられる。
人形は元の形を留める事ができず、光りともども全てが闇に呑みこまれる。
光が闇に完全に呑みこまれようとする。その瞬間。
「やっぱり駄目！おねえちゃん！！」
アイシャが愛した世界、その世界の根底にあったのは、家族への愛。
死の間際、彼女は自分の姉の幸せだけを心から願う。
その瞬間、闇の中から一筋の光が溢れ、ダナン天球の空を貫く。
貫いたのは、アーデルハイトの右目の赤いボタン。
かつての主、千代姫が彼女に命を吹き込んでくれた、赤い瞳。
ボタンを結んでいた赤い糸が延び、深淵の闇から二人を救い上げようとする。
世界は闇に沈む。
・・・気がつくと、アイシャは海に浮かんでいた。
もういい、もう何も思い出したくない。このまま滅びたい。
しかし彼女の気持ちとは裏腹に、人形は浜へ浜へと流される。
なすすべもなく、砂浜に打ち上げられる。
目の前に、人間の足らしきものが見えるが、何故かよく見えない。
「まぁ、なんてかわいそうに！」
その姿は、６歳くらいの和服の女の子。
「きっとこんな姿じゃ、だれにもかまってもらえないね。
だいじょうぶ、わたしがいまきれいになおしてあげる。」
アイシャは女の子に拾い上げられる。
「いえにもどったら、とっておきの『おようふく』と、『おめめ』をつけてあげるね。」
彼女は、にぱっと笑う。その空の上には赤い星。
夏の終わりのこの時期、南の空にアンタレスが輝く。
『アイシャ、どうか覚えていて、南の空に赤い星が輝くとき、
あなたはずっと見つめられているということを、
おねえちゃんは、ずっとアイシャの側にいるからね。』
アイシャの目から、一筋の涙が流れる。
そのすこししょっぱい水は、海水と間違われ、千代姫に綺麗に拭われていく。
アイシャは千代姫の腕の中から、ふと赤い星を見つめ、思い出す。
「そうだ…。私、弟と妹を探していたんだ…。」
世界は巡り、天もまた巡る。
その天から星が消える事はなく、その星座は地で神話となる。
全ての弟妹を救い、その手を握るその日まで、
彼女たちの輪舞曲は、永遠に終わらないのだ。
〜 Fin 〜
special thanks!!
ボブ殿、別館さん、ザクロさん、ドワイさん。
GLの皆さん。再会の日まで壮健なれ！
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